Akinori Ichiyanagi
都内ビストロ数店舗下積みを皮切りに
地元である東京 五反野で「ビストロ アンソール」を立ち上げ、ケータリング業やプライベートレストランの料理長も兼任する一柳晶紀シェフ。
小さな頃からケーキを作り、皆を喜ばせるのが大好きだったというシェフに、料理人を志したキッカケや、料理への向き合い方、これからの展望などを伺いました。
経歴
フレンチの老舗 ランスYANAGIDATEグループの「 ル・レモア」スーシェフ、「ル・カフェ・ベルトレ」シェフ、外苑前の炭焼きフレンチ「クルックキッチン」 スーシェフを歴任。
その他フレンチレストラン料理長を経て 五反野「ビストロ・アンソール」をオーナーシェフとして開業。
現在は「CHEESECAKE epi(チーズケーキ エピ)」シェフ パティシエ、プライベートレストラン「un-be(アンビ)」料理長、Catering shop 「to-un-be(トゥアンビ)」シェフディレクターを兼任。
小さな頃からケーキ作りが大好きで、人に喜んでもらうのも好き
料理人を目指したキッカケは何だったんでしょうか?
小さな頃から、人のために尽くすことが好きで、得意でした。
ものづくりも好きなので、昔からずっとパン屋さんやケーキ屋さんになりたくて。
”作ることが好きで、人に喜んでもらうのも好き”
そんな性格なので、中学生くらいから、ケーキを作って学校に持っていって、皆に食べてもらっていました。皆喜んでくれるので嬉しかったですね。
特に親と作るというわけでもなく、本を見て調べて、自分で作っていました。
そして、ケーキを知れば知るほどフレンチが身近になっていきました。
もともとパティシエになりたいと思っていたのですが、パティシエは現場に入ることが多く、製造業になってしまいます。
そうすると、自分の好きな接客やサービスができません。
その頃同時に料理も好きだったので、”フレンチならケーキ作りもフランス料理も両方学べる”と思って、フランス料理の道を志しました。
自然とフランス料理を選んで…、他の選択肢は考えられなかったですね。
小さな時から食べることも好きだったので、そこしかないなと思っていました。
ものづくりをする上で、想像するもの全てを作れるようになりたいという思いもあって。
それが最短の形で叶えられるのは、技術的な部分でもフランス料理が一番かなと思ったんです。性格的に凝り性な部分もあるので、ぴったりかなと。
18歳の時に衝撃を受けた、フレンチレストランでの食体験
今までで一番心に残っている食体験を教えてください。
もっとも心に残っているのは、初めてフレンチレストランを訪れた時のことです。
フレンチシェフを目指す友人から、面接を受ける前に一緒についてきてほしい、と言われて訪れたのが、広尾にあるフレンチレストラン。
その頃は、フレンチの道を目指したいと思っていたけれど、まだぼんやりしていて明確なイメージがなかったんです。
全てを作れるようになりたいという志を持ってはいたけれど、一体何がフレンチなのかというのがわからない。カフェのご飯もフランス料理も、違いがよくわかっていないような頃です。
それまで、お店に行ってコース料理などを食べたことがなくて。
初めてのフレンチで、料金もそんなに高いと思っていなかったので、実はお金も足りませんでした。(笑)
店内の雰囲気をはじめ、あたたかいお皿、丁寧なサービスなど、全てが当時の自分には衝撃的でしたね。
その時のコース料理のメニューは、今でも大切に持っています。
「サービスと美味しい料理で感動を与えられる、これがやりたいことだ」と思って、明確にフレンチを目指すキッカケになった出来事です。
フレンチは足し算、和食は引き算
最近食べた料理では、印象に残っているものはありますか?
年を重ねてきて、最近は和食の凄さを実感できるようになりました。
フランス料理って、足し算の方程式で作り上げていくんです。
一方で、和食は引き算。とにかく引いていく。
フレンチをやっていると、結構なんでも足して料理を完成させるんですね。
重ねたりして、味を何十層にもしたくなる。
和食は3,4種類の食材で構成を決めるので、その凄さを最近気付けるようになってきました。
自分達は味を複雑にしてこね回すような作り方は得意なんですが、引いていくという方法はあまりとらなくて。
引いてシンプルになればなるほど、いかに技術があるか、想いがあるかというのが露骨に出ます。
最近なら、to-un-beを一緒にやっている村田と赤坂の鮨屋へ行きましたが、やはり勉強になります。
料理への向き合い方など、フレンチとは違う凄さを実感しました。
和食に対しての考え方が変わってきたので、もっと勉強して体験して、深めていきたいと思っています。
もっとも影響を受けているのは、ランスYANAGIDATEでの経験
もっとも影響を受けた人物を教えてください。
料理人として最初からフレンチの道に入りましたが、ランスYANAGIDATEでの経験が最も影響を受けています。
考え方が今までの料理人とは全然違っていて、オーナーシェフの柳舘氏のことは今でも尊敬しています。
会社組織にしたときに、スキルやテクニックって磨けば磨くほど上がっていくけれど、それを仕組み化・マニュアル化することが僕らの世界では難しいんです。
そうするには、簡略化や簡素化が不可欠。
ランスYANAGIDATEでは、高度なテクニックを、しっかりマニュアル化できていました。
みんなが作れるようになっている。意味をわかっている。意識の共有ができている。
当時はその凄さがわかりませんでした。
でも自分でチームを立ち上げてみて、料理を人に伝える難しさっていうのを実感します。
その時、やっぱりすごい会社だったなと思う。
仕上げの表現や料理へのアプローチ方法。その塩梅をどこで決めるかというのは難しいですが、重点の置き方などが絶妙だったなと思いますね。
毎月長野へ訪れ、あづみ野で出会った農家さんの野菜
食材や生産者とのコミュニケーションなど、こだわっている点があれば教えてください。
ビストロ・アンソールを続けて10年程になりますが、使う食材にもやはりこだわりたいと思っています。
個人的に長野県が好きで、ハマっていた時期があったんです。その頃は長野が面白くて、毎月のように行っていました。
長野って県境が国内で一番多くて、地域によって特色が違うんです。
県境によって、その地域のカラーが変わっていくというのが面白くて好きですね。
毎月違うエリアに行って、その土地の食べ物や生産者さんなどを訪れるなかで、あづみ野に出会いました。
あづみ野は小さい町ですが、水が綺麗なのと寒暖の差があるので、面白いものができる。
その代表的なものが野菜です。
その野菜に惚れ込んで、アンソールでは、あづみ野の野菜をメインに使った料理も提供しています。
あづみ野の野菜が素晴らしいので、その流れでto-un-beなどの他のサービスでも使っていく形で運営しています。
今は1社に絞って、家族経営でやっている農家さんと契約しているので、日々あづみ野から新鮮な野菜が送られてきます。
その農家さんには直接問い合わせて現地に赴いて、サンプルを送ってもらったりしながら時間をかけてコミュニケーションをとっていきました。
最終的にここの野菜を使いたいと思ったのは、野菜作りに対する熱意や想いに惹かれた部分が大きいですね。
露地栽培で育つ野菜の味は力強く、フレンチに使っても野菜の味が負けない
素材が違うと、どのような形で料理に変化がでますか?
あづみ野の野菜たちは、とにかく味が力強いですね。 育て方がハウス栽培ではなく露地栽培なので、土や気温、雨などが、野菜の育成にダイレクトに影響します。
だから、弱い野菜たちは育つことができず、強い野菜しか育ちません。
苦味があるものは苦く、甘味が強いものは甘く。
野菜自体のエネルギーがあるので、日持ちもするし、水分量も多い。
日本の野菜って、日本料理に向いているんです。
少し淡白で繊細な味のものなどは、フランス料理を作っているときに物足りないと感じることがありますね。
でも、このあづみ野の野菜たちはそれぞれの味がしっかりしているので、フレンチに使っても負けずに主張してくれる。
アンソールやto-un-beの料理を食べていただくときに、同じように感じてくれると嬉しいです。
作りたい料理と、求められる料理の交差するところを見極めて
料理人人生における最終的な目標などがあればお伺いしたいです。
地元の小さな町からスタートして、10年間、多くのお客様に喜んでもらえるお店を続けてこれたので、これをベースに今後は目標も大きく、ターゲットも広く挑戦したいです。
日本だけにとどまらず、世界を目指す。海外の人にも食べてもらえるような料理を作ることが目標です。
ベース・テクニックは出来上がったので、これからは、表現の仕方、広め方を考えていく。俯瞰で自分を見ながら、料理を作れるようになれたらなと思います。
今はケータリングサービスも展開していますが、例えばケータリングなども、世界を視野に入れて活動もしていきたいですね。
僕らがやりたい料理と、世界的に求められる料理の交差する場所をしっかり見極めて、アプローチしていきたいと思っています。
その都度流れを見ながら柔軟に変えていって、求められる料理を提供していきます。
自分の固定概念を崩して、新しい要素を取り入れていく
そのために意識していることや取り組んでいることなどあれば教えてください。
フランス料理ってテクニック、スキルで生きていくので、だんだん固定概念が強くなっていきます。
それを再構築して、他の要素、たとえば和の要素などを取り入れて、海外の人にも食べてもらえるようなものを作っていけたら。
自分の概念を一度崩して、マーケットを広げて、最終的には海外から仕事をいただけるようなシェフになる。
日本でももちろんですが、海外からも求められるような料理人になるのは、目標の1つです。
そのためにも、食においてのインプットをとにかく増やし続ける。
やはりレベルの高いものを見続けることは、自分のモチベーションを維持することにも繋がりますね。
そして、そのものと自分との距離を知ること。
足りないものを考えて、自分や自分の料理に向き合い、輪郭を作っていく。
これからも、幼い頃から抱いている「人に尽くす喜び」や「料理・ケーキを作る喜び」を大切にしながら、どんどん新しいステージに挑戦していきたいです。