Yosuke Murata
長崎県五島列島生まれ
下町風情が残り商店街も活気ある街、東京 五反野の「ビストロ アンソール」で現場に立ちながら、依頼があれば出張プライベートシェフもこなす村田洋祐シェフ。
高校生の時にはじめて料理をして以来、常に料理を通してどんな体験を提供できるかを考えているといいます。
料理人を志したキッカケや、料理をする上で大切にしていることなどを伺いました。
経歴
銀座の老舗有名フレンチレストランにてフランス料理を始め、青山の「ランスYANAGIDATE」に勤める。
5年間オーナーシェフの柳館氏に師事し新店舗の立ち上げ、ウェディング事業、結婚式場の料理監修に携わる。24歳の時に本店のスーシェフを担う。
その後、神田ビストロ「キュルドサック」にてスーシェフ、西麻布、丸の内モダンスパニッシュ「the ringo」(現店名:EX marunouchi エクス マルノウチ)グランドシェフ、 西麻布「Plate Tokyo」 エグゼクティブシェフ、麻布十番 肉割烹「岡田前」パティシエを経験。
現在は「ビストロ アンソール」「to-un-be(トゥアンビ)」「CHEESECAKE epi(チーズケーキ エピ)」に携わり、他にも企画、商品開発をメインに「食」に関わる事業を中心に活動している。
高校生の頃から独立願望があり、料理人を目指すように
料理人を目指したキッカケは何だったんでしょうか?
高校生の時にアルバイトをしていたお店が、洋食屋さんでした。地元の方に愛されているようなお店で、シェフは元々フレンチをやっていて、フランス料理をベースにした創作料理を提供していました。
そこで初めて料理をしたのですが、隣で料理をしているオーナーの姿を見て料理人になりたいと思ったのが、料理人を目指すキッカケです。
その頃から独立願望があって、オーナーが若くして独立したということを聞いていたので、料理を頑張れば独立できるとも思いましたね。
そのお店で3年程修行した後、銀座の老舗有名フレンチレストランで本格的に料理人として働きはじめました。
フレンチを選んだのは、そのオーナーから「やるならフレンチをやれ」と言われて。
高校生当時の浅い情報の中で、世界的な料理の中で一番と言われていたのがフレンチ。
一番にこだわっていたんです。
上京して料理人を目指すにあたっても、一番すごいところに行きたいと思って、評価が高いお店に順番に電話していって決めました。
その時は、とにかく料理として一番のフレンチを一番のお店で!という思いが強かったですね。(笑)
料理観にもっとも影響を与えたのは、ランスYANAGIDATEでの経験
上京して様々なレストランで働いてきたと思いますが、もっとも影響を受けた経験は何でしょうか?
もっとも影響を受けたのは、ランスYANAGIDATEでの経験です。
5年間オーナーシェフの柳館氏に師事し、様々な経験をさせてもらいました。
現場が二人になったこともあったし、濃い関係を築いた5年間でしたね。
24歳の時に初めてスーシェフを任され、プレッシャーもありましたが必死に取り組んだことは、自分の糧となっています。
影響を受けた料理なら、シェ・イノのスペシャリテである、パイ包み焼きです。
当時、仕事の合間を縫って有名店に足を運び勉強していたのですが、普段自分が作っている料理と比べ、かなりレベルが違うことに愕然としたのは今でも鮮明に覚えています。
自分の料理と何が違うのか、考えて試してオーナーにアドバイスをもらって…。責任ある立場を任せてもらったということもモチベーションになって、毎日何かを吸収していました。
あの時のパイ包み焼きは、美味しくて感動したことはもちろんですが、悔しくて自分ももっと料理の腕を上げたいと思わせてくれた、忘れられない味です。
常にインプットをして、創作するための刺激を感じ続ける
他にも、シェフとしてモチベーションを持続するために心がけている事などはありますか?
ランスYANAGIDATEで働いていた当時も今も変わらず心がけていることは、常にインプットを怠らないこと。
料理に限らず、様々なインプットを増やすことが料理へのモチベーションになっています。
クオリティの高い料理はもちろん、街の景観や人とのコミュニケーションであったり、アートやクリエイティブの現場へ行ったり。海外旅行などもとても刺激になります。
日常の行動範囲だと、どうしても属するコミュニティも定まってしまい、視野も広がりません。海外などの異文化に触れると、自分の中の感覚の幅が広がります。なので、SNSでも海外の情報は積極的に得るようにしています。
他にも、人が頑張っている姿を見ると、背中を押される感じはしますよね。
to-un-beにはラボ(※)があって、今は20人以上のスタッフがいます。
ラボに行ってみんなが料理に取り組んでいる姿を見ることも、日々のモチベーションに繋がっています。
※ to-un-be、CHEESE CAKE epiのセントラルキッチン機能を中心とした様々なサービスを生み出していく場所として2023年12月に 「UN-BE TOKYO LAB」をオープン。 「UN-BE TOKYO LAB」では、ケータリング、出張料理、そして食に関わる様々なサービスを展開予定。
故郷・五島列島の食材など、生産者の顔が見えるものを
生産者とのコミュニケーションによって、メニューや調理に影響を受けることはありますか?
使う料理によって違うけれど、生産者や食材にはこだわりたいという思いがあります。
生まれが長崎県・五島列島なので、レストラン時代から五島列島の食材を使うことにこだわっていたりしますね。
今は、長野のあずみ野から取り寄せた野菜などを使っています。
生産者さんとコミュニケーションをとって仕入れた食材は、スーパーなどに並んでいるものとは全く質が違いますよ。
せっかくの良い食材なので、それを活かすためにも料理へのアプローチを変えたりもします。
to-un-beでは、一度にたくさんの量を調理するため、全部は難しいけれど、生産者さんの顔が見える野菜を使っています。そこの野菜は本当に美味しいので。
自分が作る料理やお店がフィルターになって、良いものを世の中に伝えたい
シェフとしてだけでなく、今後どのように食と関わっていこうと考えていますか?
今はto-un-beとCHEESECAKE epi、ビストロ アンソールという飲食店に携わっています。
先ほどお話しした生産者さんとのコミュニケーションもそうですが、料理は作ったものだけが全てではありません。
使う食材、その食材の生産背景、ストーリーなど、様々なものが合わさっています。
だからこそ、自分が作る料理やお店がフィルターになって、日本の生産者さんなどをもっと世の中に伝えられるといいな、と思いますね。
その食材がなぜ美味しいのか知ってもらったり、生産者や生産地に興味を持ってもらったりと、料理を入り口に伝えられることってたくさんあると思っています。
そういう思いもあって、食材や産地にこだわっている部分はありますね。
パーソナルな料理体験を提供するために、今できることを
料理人人生における最終的な目標や、そのために取り組んでいることを教えてください。
最終的な目標はパーソナルな料理体験を提供すること。
そのために現場にも立ちながら、出張料理などをやっています。
個人的な展望としては、最終的に飲食店1つにこだわりたいというのは思っています。
出張料理のような、1対1組という形で料理を作ることが好きなんです。
老後くらいにはそんな風に、とてもプライベートな料理体験を提供するのは夢ですね。
今はそれを叶えるために、広いところでたくさんの人に料理を届けたいという思いがあります。to-un-beでケータリング料理などを展開していて、今後は全国的、世界的に展開できたら嬉しいですね。
現場はアンソールに集中して、そこにくるお客様に喜んでもらえるような料理を提供していきたい。
もちろん、毎月コンスタントに入ってくる出張料理、常連様へ料理を作る現場もあるので、そのような少人数のお客様へのご提供というのも、これからも携わっていきます。
ゼロからないものを考える、想像するのが好き
お話を伺っていると、料理を通したコミュニケーションにも重点を置いている印象です。
自分が得意だと自負しているのは、お客様の情報を聞いて、その人の好きなものを想像して提供すること。
得意であり、好きなことって言えると思います。
ないものを考える、想像する力。
要望に合わせて、ゼロからオリジナルメニューを考えることはもちろん、お客様好みに変えてみるのも面白いですよね。
例えば、料理名は同じビーフシチューでも、作る料理人によって味が違います。
提供するお客様によっても、好みに合わせて味を変えられたら一番いいのかなと。
料理人とお客様が向き合ったとき、料理はこうでないといけない、という決まりはありません。
実は二十代の頃からの夢で、1組だけの予約制のお店をやりたいなと思っているんです。
自分が料理人で、その1組だけのために作るオーダーメイドの料理。
空想的なんですが、好みや生い立ちなどを聞いてカウンセリングのように、その人のためのコースを組み立てる。
食材から作り方、食器など、細部までパーソナルな部分も反映されたコースが作れたら面白いですよね。
その1組のためだけのお店とかもいいなあ、と思ったり、想像は膨らみます。(笑)
求められる料理を提供するために、インプットを増やすこと
お客様に合わせた料理を提供するためには、自分にも多くの引き出しが必要です。さまざまなことがインスピレーション源になるので、インプットを増やさないといけないですね。
あとは時代の流れをしっかりと見ることと、人とのコミュニケーション。
これからも新しいことにチャレンジしつつ、料理を通していろいろなことを表現していけたらと思っています。